第1章 「関税」という名のメッセージ
トランプ大統領が大統領選挙に掲げた公約のひとつに、「米国製造業の復活」がありました。彼は、いわば「かつてのアメリカ」を取り戻す象徴として、製造業の国内回帰を強く打ち出しました。その実現手段のひとつが「関税」です。
しかし、この関税政策には、経済合理性というよりは「政治的パフォーマンス」の側面が色濃く映っているように私には思えます。そもそも関税は、自国産業を守る反面、輸入コストを上げ、消費者や関連企業にしわ寄せがいくという側面も持ち合わせています。トランプ氏はそうしたトレードオフを十分に理解したうえで、関税を「脅しの道具」として使っているように見えるのです。
第2章 トランプ氏の過去動向から「トランプ・ファースト」と見える
彼の動向を過去から眺めてみると彼の考えが読めるように思います。。それは政界入り以前、テレビ番組やプロレスの舞台に登場していた頃からです。つまり、トランプ氏がどういう人物で、どんな行動パターンを好むのか、ある程度の予測はできそうです。
彼の根底にあるのは「アメリカ・ファースト」ではなく、「トランプ・ファースト」なのではないか――。そう感じさせる言動が、これまで幾度も見受けられました。自身のブランド、自身の名誉、そして「歴史に名前を残したい」という強い願望。それが彼の政治行動を左右している可能性は否めません。
第3章 トランプ関税の“はったり”要素
「アメリカに製造業を取り戻す」という理念は、確かに支持者にとっては響きの良いスローガンです。しかし、それを現実の経済政策として実行する際には、極めて複雑な調整が必要となります。なぜなら、アメリカ経済はすでに高度にグローバル化されており、多くの企業が中国やメキシコなどで生産し、そこから部品や製品を輸入しているからです。
関税をかければ、輸入コストは上昇し、結果的にアメリカ国内の企業や消費者が損をします。これは「自国の首を自国で締める」政策になりかねません。ですから私は、トランプ氏の関税政策には「はったり」、あるいは「交渉材料としての圧力」という性格が強く含まれていると考えています。
第4章 “関税ショック”を避けたい心理
トランプ氏が自らの名前に「ショック」が冠される事態を避けたいと考えている可能性は高いと私は見ています。かつての「リーマン・ショック」「コロナ・ショック」と並んで、「トランプ・ショック」という言葉が歴史に刻まれることは、彼の自己イメージにとって大きな損失となるでしょう。
株価の大暴落や経済の急失速は、いくら支持基盤にアピールするための政策であっても、さすがに本望ではないはずです。逆に言えば、トランプ氏は最終的に「株価を上げて、自分の政策が経済にプラスであった」と印象づけたいはずです。そのためには、一時的な威嚇的関税は打ち出しても、最終的にはソフトランディングを狙うと考えるのが自然です。
第5章 米中関係の中で揺れる世界経済
とりわけ中国との関税合戦は、アメリカ経済にとっても決して得なものではありません。中国に生産拠点を持つ米国企業は多く、関税の応酬によって収益が下がり、結果としてアメリカ国内の雇用や株価にも影響が及びます。
そのうえ、関税政策は為替市場にも波紋を広げ、ドル安・円高という形で日本にも影響を与えています。輸入価格の低下で家計にとっては一部プラスですが、自動車などの輸出産業にとっては打撃です。
また、米国債の売却や金利上昇といった現象も並行して起きており、トランプ政権の経済政策が金融市場全体を不安定にしているのも事実です。こうした「玉突き的影響」を考慮すると、関税の継続は「国内産業の復活」という目的と真っ向から矛盾する結果をもたらす可能性すらあるのです。
第6章 今後の展望と含みのある“90日間”
「関税の90日間停止」は、ある種の“時間稼ぎ”とも読めます。報復関税を行っていない国に限るという条件付きで、一見すると合理的な政策に見えますが、その背景には「交渉の余地を残す」という政治的意図がうかがえます。
この間に各国から何らかの譲歩を引き出せれば、トランプ氏は「私は約束を果たした」と主張できるのです。特に、自身の支持基盤である「ラストベルト」の労働者たちに対し、「自分は彼らを裏切っていない」という実績を作りたい思惑が感じられます。
とはいえ、90日間の停止期間が終わった後に何が起こるのかは、いまだ不透明です。対中政策に関しては、依然として強硬姿勢を貫いており、むしろ「部分的な対話の成果」を演出しつつ、交渉を有利に進めたいというのが本音ではないかと私は推測しています。
まとめ 「見せかけの強硬」か、「本気の構造転換」か
結局のところ、トランプ関税が単なるパフォーマンスに過ぎないのか、それとも米国経済を本気で変える構造転換の一手なのか。それを見極めるには、彼の言葉ではなく「結果」に注目する必要があります。
私の見立てでは、現状では「はったり」の側面が強い。つまり、相手を威嚇し、揺さぶり、最後には自らが勝者としての物語を描く――それがトランプ氏の望む姿ではないでしょうか。
もちろん、今後の米中関係の展開、あるいはEUや日本との駆け引き次第で、情勢は変化するかもしれません。ただひとつ言えるのは、トランプ氏の政策には常に「演出」が伴っており、それを読み解くには政治・経済に加えて“人間”を見る視点が欠かせないということです。

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