iPhoneの「米国内生産」と「海外生産」がもたらす経済的影響

アメリカ経済

アメリカ製造だと100$以上値上がり!

 もしAppleが、iPhoneの製造拠点を中国やインドからアメリカ本土に完全に移したとしたら、消費者と企業の両面で、少なからぬ衝撃が走ることでしょう。最大の課題はコスト構造の劇的な変化です。iPhoneの組立にかかるコストは現在、1台あたりおよそ30〜40ドル程度とされており、これは労働力が安価な地域での大量生産に支えられています。対して、アメリカで同様の製造工程を維持しようとすれば、労務費と設備コストの上昇により、1台あたりおよそ100ドル以上の増加が予想されます。

iPhoneの価格はどうなる?

 価格転嫁は避けがたく、iPhone 16の標準モデル(799ドル)が仮に25%値上がりした場合、販売価格はおよそ1,000ドル前後に達することになります。日本で考えると、124800円が156000円になります。

これにより、買い替えサイクルは延び、販売台数は減少、Appleの営業利益率(2023年時点で約29%)にも確実に下押し圧力がかかるはずです。

アメリカ国内製造のメリットと、トランプ大統領のメリット

 とはいえ、国内生産は雇用創出の面で明るい材料ともなります。試算では、仮に米国で年間1億台を製造するとして、直接雇用だけで約4〜5万人の製造業ポジションが新たに生まれると見込まれています。さらに、部品供給や物流といった間接的な雇用も含めれば、雇用創出効果はその数倍に膨らむでしょう。これは、米中の緊張関係や経済安全保障を背景に「国内回帰」への期待が高まるなかで、一定の政治的・社会的インパクトを持つ提案となります。

そして、製造業ポジションはトランプ大統領の支持層とイコールです。トランプ大統領にとっては二兎を得ることになります。

非現実な壁

 しかしながら、この構想には現実的な壁もあります。Appleのサプライチェーンは約200社にまたがり、そのうちの9割以上がアジア圏に集中しています。単に「工場をアメリカに建てる」だけでは済まず、半導体やバッテリー、精密機械部品などの高度なエコシステム全体を移設する必要があるのです。これは、数兆円単位の投資と、少なくとも5〜10年の時間がかかる長期戦です。

 一方、現在のまま海外生産を続ければ、製品価格は抑えられ、グローバルな価格競争力も維持されます。ただし、米中関係の悪化や、突発的なロックダウン、地政学リスクによって供給が止まるリスクは拭えません。実際、2022年の中国・鄭州工場の封鎖では、Appleは数千万台規模の生産減少に直面し、ホリデー商戦で販売機会を失ったことは記憶に新しいところです。

 Appleは現在、インドを第二の生産拠点と位置づけ、2025年までにiPhoneの約25%をインドで製造するとしています。これは、コストとリスクを天秤にかけた「第三の道」としての模索です。今後、アメリカ国内での生産比率が高まるかどうかは、政治の動向、消費者の反応、そしてApple自身の戦略判断にかかっています。

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